ネットワークスペシャリスト午後で最も繰り返し問われるプロトコルです。「ルータたちが地図を共有して、各自が最短経路を計算する仕組み」と 一言で言えますが、設問に答えるには「地図をどう作り、どう配り、大きくなったらどう分割するか」まで分かっている必要があります。 小さな会社のネットワークを例に、動作の順番どおりに説明します。
R1・R2 が本社、R3 が支社A、R5 が支社B、R4 はデータセンターのルータです。R4 があるおかげで支社A から支社B へは「R4 経由」と「本社経由」の 2 通りの経路ができ、 どちらを選ぶか(コスト比較)、片方が切れたらどうなるか(迂回)を説明できます。
ルータは「宛先ネットワーク X に行くには、どの隣に渡せばよいか」を書いた経路表を持たなければ転送できません。 これを手で書くのが静的経路です。図1 なら R3 に「本社のサーバ宛ては R1 へ」「支社B 宛ては R4 へ」と書く、という具合です。
静的経路の弱点は、回線が切れても誰も気づかないことです。R3–R1 の回線が切れたら、R3 の経路表を人が「本社宛ては R4 へ」と書き換えに行く必要があります。 ルータが 5 台ならまだしも、100 台になれば不可能です。
各ルータは OSPF を有効にした全インタフェースから Hello パケットを定期的(既定 10 秒ごと)に送ります。宛先はマルチキャスト 224.0.0.5 で、同じ区間にいる OSPF ルータだけが受け取ります。 Hello を受け取ったルータ同士は互いを「ネイバー(隣人)」として登録し、情報交換の約束を結びます。この結ばれた状態を隣接関係(アジャセンシー)と呼びます。
お互いを区別するために、各ルータは ルータ ID を 1 つ持ちます。32 ビットの番号で、IP アドレスと同じ書き方(1.1.1.1 など)をしますが、宛先として使うアドレスではなく名前です。 明示的に設定しなければ、有効なループバックインタフェースのアドレスのうち最大のものが自動で選ばれます。
Hello が一定時間(Dead 間隔、既定 40 秒)届かないと、相手が死んだと判断して隣接関係を解消します。これが障害検知の仕組みです。
隣接関係ができたら、各ルータは自己紹介文を作ります。「私はルータ ID 1.1.1.1。R2 とコスト 10、R3 とコスト 10、R4 とコスト 20 でつながっている」という内容で、 これが LSA(Link State Advertisement、リンク状態広告)です。
LSA は隣接ルータに渡され、受け取ったルータはそれをさらに自分の隣へ中継します(フラッディング)。結果として全ルータが全員分の LSA を持ちます。 この集まりが LSDB(Link State Database、リンク状態データベース)で、ネットワーク全体の地図です。図1 そのものが全ルータの頭の中にある状態です。
LSA には種類があり、午後で問われるのは次の 4 つです。
| 種類 | 誰が作るか | 内容 |
|---|---|---|
| Type1 ルータ LSA | 全ルータ | 自分のリンクとコスト(上の自己紹介文)。エリア内にだけ流れる |
| Type2 ネットワーク LSA | DR(4 章) | イーサネット区間につながっているルータの一覧 |
| Type3 サマリ LSA | ABR(3 章) | 「隣のエリアにこのネットワークがある」という要約。エリアをまたぐ |
| Type4 ASBR サマリ LSA | ABR(3 章) | 「ASBR はこちら、そこまでのコストはこれだけ」という ASBR の位置。Type5 を他エリアで計算できるようにする補助 |
| Type5 外部 LSA | ASBR(3 章) | OSPF の外(静的経路・BGP など)から持ち込んだ経路 |
| Type7 NSSA 外部 LSA | NSSA 内の ASBR | Type5 を受け取らないエリア(NSSA)の中で外部経路を運ぶ。ABR で Type5 に変換される |
地図が揃ったら、各ルータは自分を起点に全宛先への最短経路を計算します。アルゴリズムはダイクストラ法で、OSPF ではこれを SPF(Shortest Path First)計算と呼びます。 計算結果(宛先ごとのネクストホップ)が経路表に入ります。
距離の単位がコストです。インタフェースごとに付く値で、既定は「基準帯域 100Mbps ÷ 回線帯域」(100Mbps なら 1、10Mbps なら 10。1Gbps 以上は基準帯域を上げて設定する)。 経路のコストは通過するインタフェースのコストの合計で、小さい経路が選ばれます。
図1 で R3 から R5 へ行く経路 R3 → R4 → R5 10 + 10 = 20 ← 最小、これが選ばれる R3 → R1 → R2 → R5 10 + 10 + 10 = 30 R3 → R1 → R4 → R5 10 + 20 + 10 = 40
コストから出てくる午後の論点は 3 つです。
計算結果は経路表に「OSPF で学んだ経路」として入ります。同じ宛先を静的経路でも持っている場合、どちらを使うかは管理距離(AD 値)で決まり、多くの実装で静的経路のほうが優先されます。 そのため「静的経路を削除すると、同じ宛先の OSPF 経路が有効になる」という設問が出ます(令和5年 午後Ⅱ問1 設問2(6)、令和3年 午後Ⅱ問2 設問3(3))。
ルータが数百台になると、全員が全員の LSA を持ち、1 本の回線断でも全員が再計算するのは重すぎます。そこで地図をエリアに分割します。
午後で問われるエリア設計の型は「支社ごとに別エリアにして LSA を局所化する」「本社をエリア 0 にする」「ABR で支社の経路を集約する」の 3 点です。
ルータ同士が 1 本のケーブルで直結している区間(ポイントツーポイント)なら隣は 1 台ですが、L2 スイッチに 5 台のルータがつながる区間では、全員が全員と隣接関係を結ぶと 10 組の LSA 交換が起きて無駄です。
そこで区間ごとに代表ルータ DR(Designated Router)と副代表 BDR を選び、各ルータは DR・BDR とだけ隣接関係を結びます。DR はその区間の Type2 LSA(ネットワーク LSA)を作る役目も持ちます。
選出は優先度(プライオリティ)が最大のルータ、同点ならルータ ID が最大のルータです。優先度 0 にすると DR になりません。DR は一度決まると、より優先度の高いルータが後から来ても交代しません。
| 用語 | 意味 | 午後でのポイント |
|---|---|---|
| ルータ ID | 各ルータの 32 ビット識別子 | ループバックに設定(消えないから)。DR 選出の同点判定にも使う |
| Hello / Dead 間隔 | 生存確認の送信間隔 / 死亡判定までの時間(既定 10 秒 / 40 秒) | 両端で一致していないと隣接にならない。短くすると障害検知が速い |
| 隣接関係(アジャセンシー) | LSA を交換する約束を結んだ状態 | ネイバー認証で、鍵を知らない相手とは隣接を結ばない(認証であって暗号化ではない) |
| LSA | ルータの接続情報の広告。Type1 ルータ、Type2 ネットワーク、Type3 サマリ、Type4 ASBR サマリ、Type5 外部、Type7 NSSA 外部 | Type3・Type4 は ABR、Type5 は ASBR が作る |
| Type4 ASBR サマリ LSA | ABR が隣のエリアへ ASBR の位置とそこまでのコストを伝える LSA | Type5 とセット。午前Ⅱの選択肢対策 |
| NSSA | 外部経路(Type5)を受け取らないが、エリア内の ASBR からは Type7 で外部経路を持ち込めるスタブエリア | Type7 は ABR で Type5 に変換される |
| LSDB | LSA を集めた地図。エリア内で全員同じ | 「OSPF だけが持つもの」 |
| SPF 計算 | LSDB から自分起点の最短経路を求めるダイクストラ法 | 収束=SPF 計算が終わり経路表が揃うこと |
| コスト | インタフェースの重み。基準帯域 ÷ 回線帯域 | 大きくして迂回、同じにして ECMP |
| ECMP | 等コストの複数経路に分散 | 負荷分散設計の根拠。経路数とコストを答えさせる |
| エリア 0 | バックボーンエリア。ID 0.0.0.0 | 全エリアが直結する。分断させない |
| ABR | エリア境界ルータ | Type3 で要約を流す。経路集約はここ |
| ASBR | AS 境界ルータ。外部経路を再配布 | Type5 を流す。静的経路や BGP との接点 |
| 再配布 | 他のプロトコルの経路を OSPF に流し込む | 再配布した経路が元に戻るとルーティングループ。経路フィルタで防ぐ |
| 経路集約 | 複数のネットワークを 1 つのプレフィックスにまとめる | ヌルルートとセット。集約で隠れた経路のループ防止 |
| DR / BDR | マルチアクセス区間の代表 / 副代表 | 優先度 → ルータ ID で選出。交代しない |
| スタブエリア | 外部経路(Type5)を受け取らず、デフォルトルートで代用するエリア | 支社側で LSDB を小さくする設計 |
| OSPFv3 | IPv6 版。仕組みは同じでリンクローカルアドレスで隣接を結ぶ | ルータ ID は IPv6 でも 32 ビット |
| マルチキャスト / プロトコル番号 | 224.0.0.5(全 OSPF ルータ)、224.0.0.6(DR/BDR)。IP プロトコル番号 89 | 午前Ⅱの定番。TCP/UDP を使わない |
| RIP-2 | OSPF | BGP-4 | |
|---|---|---|---|
| 使う場所 | 小規模な社内 | 社内(AS 内) | 組織間(AS 間)、ISP との接続、マルチホーム |
| 方式 | 距離ベクタ(結論を伝言) | リンク状態(地図を共有) | パスベクタ(通ってきた AS の列と属性で選ぶ) |
| 経路の良し悪し | ホップ数(最大 15) | コスト | AS_PATH 長や LOCAL_PREF などの属性。ポリシーで操作 |
| 収束 | 遅い(30 秒ごとの全表送信) | 速い(変化時に LSA) | 隣接は手動設定、TCP 179 で確実に届ける |
午後の典型は「社内は OSPF、インターネットや他社とは BGP、両者の境目のルータが ASBR として再配布する」という組合せです。 令和5年 午後Ⅱ問1(マルチクラウドの BGP と VRRP)、令和3年 午後Ⅱ問2(静的経路から BGP/OSPF への切替)がこの形です。 同じ文章に OSPF と BGP が混在するので、どちらの話をしているかを取り違えないことが第一歩です(AS_PATH、ネクストホップセルフ、ピアリングは BGP の語。LSA、エリア、コストは OSPF の語)。
| 設問の型 | 答え方 | 出た年度 |
|---|---|---|
| 空欄「エリア ID 0.0.0.0 の□エリア」 | バックボーン | R7 午後Ⅰ問1 |
| 空欄「ルータを識別する□ ID」「ループバックを使う理由」 | ルータ。物理 IF が落ちても ID が消えないから | R7 午後Ⅰ問1、R6 午後Ⅱ問1 |
| ネイバー認証で防げる問題 | 不正なルータと隣接関係になり経路を交換してしまうこと(盗聴防止と書かない) | R7 午後Ⅰ問1 |
| 保守対象のルータを迂回させる方法 | そのインタフェースの OSPF コストを 65535 など十分大きな値にする | R7 午後Ⅰ問1 |
| 電源投入後に待つ理由 | OSPF の経路情報が収束するのを待つ。収束前に VRRP マスターになると転送できない | R7 午後Ⅰ問1、R5 午後Ⅱ問1 |
| ECMP のためのコスト設計 | 分散させたい複数経路のコストを同じ値にする。経路数とコストを答える | R6 午後Ⅱ問1、R4 午後Ⅱ問1 |
| 再配布した経路の LSA タイプと生成機器 | Type5(外部 LSA)、ASBR にあたる機器名 | R6 午後Ⅰ問2 |
| 経路フィルタで防げる障害 | 再配布された経路が元に戻ることによるルーティングループ | R6 午後Ⅰ問2 |
| 経路集約の目的・設定する機器 | エリア 0 の経路数を減らす。ABR。集約範囲のループはヌルルートで防ぐ | R3 午後Ⅰ問2、R7 午後Ⅱ問1 |
| エリア 0 が分断されると | 到達できないネットワークが生じる。分断されたエリア 0 同士を直結(または仮想リンク) | R3 午後Ⅰ問2 |
| 静的経路を消すと OSPF 経路が有効になる理由 | 静的経路の管理距離が小さく優先されていたから。削除で OSPF 経路が採用される | R5 午後Ⅱ問1、R3 午後Ⅱ問2 |
クリックで答えが開きます。全部即答できれば、午後の OSPF 設問は知識面では足ります。
無料の Cisco Packet Tracer か GNS3 でルータ 3 台をエリア 0 に組むと、上の説明がそのまま画面に出ます。見るコマンドは 3 つで十分です。
show ip ospf neighbor 隣接関係の一覧。State が FULL なら LSA 交換済み。DR/BDR もここに出る show ip ospf database LSDB。Router Link States(Type1)、Net Link States(Type2)、Summary(Type3)、External(Type5) show ip route ospf OSPF で学んだ経路。[110/20] の 110 が管理距離、20 がコスト 設定の最小形(Cisco) router ospf 1 router-id 1.1.1.1 network 10.0.0.0 0.255.255.255 area 0 interface GigabitEthernet0/1 ip ospf cost 65535 ← 迂回させたいときの操作
回線を 1 本 shutdown して show ip route を見ると、数秒で経路が切り替わります。これが「収束」で、その数秒間に ping を打ち続けると何発か落ちるのが体感できます。
このページの用語集(19 語)から作った確認問題です。「意味 → 用語」は意味の説明(用語そのものは__で伏せてある)を読んで用語を入力し、Enter で答え合わせします。 表記ゆれで × になったときは「合っていた」で直せます。「用語 → 意味」は口で説明してから答えを開いて自己採点します。結果はこのブラウザに保存され、「×だけ」で間違えた語だけを解き直せます。
作成 2026-10-26。ネットワークスペシャリスト 科目B(午後)対策。出典の年度・設問番号は令和3〜7年春期の午後Ⅰ・Ⅱ(IPA 公開問題)。 関連: ルーティング即答ドリル(RIP-2/OSPF/BGP-4 の比較表)、午後 解答用紙 令和7年。