同じ映像や株価情報を大勢に同時に届けるための仕組みです。ユニキャストでは送信者の負荷が受信者数に比例し、ブロードキャストでは要らない人にも届いてしまう。 その間を埋めるのがマルチキャストで、「欲しい人だけが手を挙げ(IGMP)、ルータが手を挙げた方向にだけ複製して流す(PIM)」のが全体像です。 令和5年 午後Ⅰ問2(IP カメラ 20 台の映像配信)がこの形で出ています。
IP カメラ 1 台の映像(8Mbps)を 6 台のレシーバで見たいとします。ユニキャストならカメラは 6 本のストリームを別々に送るので、カメラとその上流回線に 48Mbps 流れます。 カメラが 20 台、見る人が増えるほど、送信側と幹線の帯域が足りなくなります。
マルチキャストでは、カメラはグループアドレス(239.1.1.1 のような特別な宛先)に 1 本だけ送ります。経路の途中で分岐する機器(L3SW・ルータ)が必要な方向にだけ複製するので、 受信者が何人でもソース側は 8Mbps のままです。この「複製される木」をディストリビューションツリー(配信木)と呼びます。ソースが根、レシーバが葉です。
| ユニキャスト | ブロードキャスト | マルチキャスト | |
|---|---|---|---|
| 宛先 | 1 台 | 同一セグメントの全員 | グループに参加した端末 |
| ルータを越えるか | 越える | 越えない | 越える(PIM が必要) |
| 送信側の負荷 | 受信者数に比例 | 1 本 | 1 本 |
| 用途 | 通常の通信 | ARP・DHCP | 映像配信・株価配信・OSPF の Hello・VXLAN の BUM 配送 |
マルチキャストの宛先はクラス D(224.0.0.0/4、先頭 4 ビットが 1110)です。送信元アドレスには使えません(送信元は常にソースのユニキャストアドレス)。
| 範囲 | 用途 | 例 |
|---|---|---|
| 224.0.0.0/24 | リンクローカル。ルータが転送しない制御用 | 224.0.0.1 全ホスト、224.0.0.2 全ルータ、224.0.0.5/6 OSPF、224.0.0.18 VRRP、224.0.0.13 PIM |
| 232.0.0.0/8 | SSM(ソース指定マルチキャスト)用 | 232.1.1.1 |
| 239.0.0.0/8 | 組織内で自由に使う(プライベートアドレス相当) | 239.1.1.1。社内の映像配信や VXLAN の BUM 用はここ |
| その他 224〜238 | インターネット上で登録制 |
イーサネット上では、グループアドレスは 01-00-5e で始まるマルチキャスト MAC アドレスに変換されます。IP の下位 23 ビットをそのまま MAC の下位 23 ビットにし、残りは固定値です。 IP 側は先頭 4 ビットを除いて 28 ビットあるので5 ビット分の情報が落ち、32 個の IP グループが同じ MAC になります。L2 スイッチは MAC しか見ないため、別グループの通信が同じポートに流れることがあり、グループアドレスの設計時に避けます。
受信したい端末は「私は 239.1.1.1 が欲しい」と手を挙げます。このプロトコルが IGMP(Internet Group Management Protocol)で、端末と最寄りのルータ(L3SW)の間だけで使われます。
端末はグループ宛ての IGMP Membership Report(Join メッセージ)を送ります。これを受け取ったルータは「このインタフェースの先に 239.1.1.1 の受信者がいる」と記録し、配送を開始します。
ルータは定期的に IGMP Query を全ホスト(224.0.0.1)宛てに送り、まだ欲しい端末は Report で応答します。応答が無くなったら配送を止めます。 同じセグメントに複数のルータがあるときは、IP アドレスが最小のルータ 1 台だけがクエリアになって Query を出します。
IGMPv2 以降では端末が Leave を送り、ルータはそのグループ宛てに Query を出して他に受信者がいなければ即座に止めます(v1 にはこれが無く、タイムアウト待ちでした)。
L2 スイッチは本来 IP の中身を見ませんが、IGMP スヌーピングを有効にすると Report/Leave を覗き見て「グループアドレス ↔ そのグループを要求したポート」の表を作り、 マルチキャストフレームを要求のあったポートにだけ転送します。2 章の「フラッディングされてしまう」問題への対策です(令和5年 午後Ⅰ問2 設問3(2))。
| IGMPv2 | IGMPv3 | |
|---|---|---|
| 要求の単位 | グループだけ (*,G) 「239.1.1.1 を全部」 | ソースとグループ (S,G) 「ソース 10.1.1.11 からの 239.1.1.1 だけ」 |
| Report の宛先 | そのグループアドレス | 224.0.0.22(全 IGMPv3 ルータ) |
| 対応する配送 | PIM-SM(RP が必要) | PIM-SSM(RP 不要) |
| アドレス設計 | カメラごとに別のグループアドレスが要る(同じにすると全カメラ分届く) | 全カメラが同じグループアドレスでよく、ソースで区別する |
ルータ同士でマルチキャストの配信木を作るプロトコルが PIM(Protocol Independent Multicast)です。「Protocol Independent」は、経路情報を自分では集めず既存のユニキャスト経路表(OSPF などが作ったもの)をそのまま使うという意味です。 PIM を有効にしたルータ同士は Hello(224.0.0.13)で隣接を結びます。
受信者がまばらな前提で、要求があった方向にだけ木を伸ばします。問題は「レシーバ側のルータは、ソースがどこにいるか最初は知らない」ことです。そこでランデブーポイント RP という待ち合わせ場所のルータを決めておきます。
受信者が最初から「ソース S の グループ G」と (S,G) で要求すれば、ソースの場所を探す必要がなく、RP が不要になります。これが SSM で、IGMPv3 と組み合わせ、グループアドレスは 232.0.0.0/8 を使います。 RP という単一障害点が無く設定も簡単なので、ソースが決まっている社内の映像配信では SSM が第一候補です(令和5年 午後Ⅰ問2 はこの構成で、L3SW で SSM を有効化しています)。
受信者が密にいる前提で、まず全方向に流してから要らない枝を刈る(フラッド&プルーン)方式です。小規模向けで、午後の本文では比較用に一言出る程度です。
マルチキャストは 1 つのパケットが複製されて広がるので、ループすると爆発的に増えます。そこでルータは受信したマルチキャストパケットについて 「送信元アドレスに向かう最短経路の出口インタフェースと、実際に受信したインタフェースが同じか」をユニキャスト経路表で確認し、違えば捨てます。これが RPF(Reverse Path Forwarding)チェックです。 正規の経路からだけ受け取ることで、同じパケットが別の経路から回ってきても複製されません。
| 用語 | 意味 | 午後でのポイント |
|---|---|---|
| グループアドレス | 224.0.0.0/4 のクラス D。受信者の集合を表す宛先 | 送信元にはならない。組織内は 239/8、SSM は 232/8 |
| ソース / レシーバ | 配信元 / 受信者 | 設問で「ソースとレシーバという字句を用いて」と指定される |
| ディストリビューションツリー | ソースを根、レシーバを葉とする配信木 | 令和5年の空欄で正答率が低かった語 |
| マルチキャスト MAC | 01-00-5e + IP 下位 23 ビット | 32 対 1 で重複。学習されずフラッディングされる |
| IGMP | 端末が最寄りルータに参加・離脱を伝える | v2 は (*,G)、v3 は (S,G) |
| Join(Report)/ Leave / Query | 参加 / 離脱 / ルータからの生存確認 | クエリアは IP 最小のルータ 1 台 |
| IGMP スヌーピング | L2SW が IGMP を覗いてグループ↔ポート表を作る | 不要なポートへ流さない。クエリアが要る |
| PIM | ルータ間で配信木を作る。経路はユニキャスト経路表を使う | 全ルータ間インタフェースで有効化 |
| PIM-SM / RP | 要求のある方向だけ配送。RP は待ち合わせ場所 | 共有木 (*,G) → 最短経路木 (S,G) へ切替 |
| PIM-SSM | (S,G) で要求し RP 不要 | IGMPv3 とセット。232/8 |
| (*,G) / (S,G) | 任意ソース / 特定ソースのグループ | v2/v3、SM/SSM の対応関係 |
| RPF チェック | 送信元への最短経路の IF から来たパケットだけ受理 | ループ防止。非対称経路で失敗 |
| BUM | Broadcast / Unknown unicast / Multicast | VXLAN でマルチキャストグループに乗せて配る |
| 設問の型 | 答え方 | 出た年度 |
|---|---|---|
| L2SW がマルチキャストフレームをどう扱うか(空欄) | フラッディング(送信元にならないので MAC 学習されない) | R5 午後Ⅰ問2、H27 午後Ⅱ問2 |
| ユニキャスト配信の欠点 | 配信先のレシーバの数に応じてソースの通信量が増加する | R5 午後Ⅰ問2 |
| 幹線の最大帯域(計算) | 流れる映像の本数(カメラ台数)×1 本の帯域。受信者数では増えない | R5 午後Ⅰ問2 |
| IGMPv2 にする場合のアドレス設計 | 全てのカメラに個別の IP アドレスと個別のグループアドレスを使う | R5 午後Ⅰ問2 |
| IGMPv3(SSM)の利点 | グループアドレスの設計が容易になる | R5 午後Ⅰ問2 |
| IGMP スヌーピングが保持する情報 | グループアドレスとインタフェース(ポート)の対応 | R5 午後Ⅰ問2 |
| 受信者が増えたとき追加設定する機器と設定 | 受信者がつながる L2SW 向きの L3SW インタフェースに IGMPv3 を追加(図で受信者の位置を正確に見る) | R5 午後Ⅰ問2 |
| IP グループアドレスに対応する MAC アドレス | 01-00-5e + 下位 23 ビット | H27 午後Ⅱ問2 |
| 端末が受信を始めるために送るもの | グループ宛ての IGMP Join を最寄りの L3SW へ送る | H27 午後Ⅱ問2 |
| IGMP スヌーピング無しの問題 | 不要なマルチキャストがネットワーク内に転送され、機器や回線の負荷が高まる | H27 午後Ⅱ問2 |
| VXLAN の BUM 配送先グループ | VNI に対応するマルチキャストグループ(239.0.0.1 など) | R6 午後Ⅱ問1、H27 午後Ⅱ問2 |
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Cisco(PIM-SSM の最小形。IGMPv3 と組み合わせる) ip multicast-routing interface Vlan10 ← レシーバがいる VLAN ip pim sparse-mode ip igmp version 3 interface GigabitEthernet0/1 ← ルータ間 ip pim sparse-mode ip pim ssm default ← 232/8 を SSM として扱う show ip igmp groups どのグループをどの IF で要求されているか show ip mroute (*,G) と (S,G) のエントリ、受信 IF(RPF)と出力 IF リスト show ip igmp snooping groups (L2SW 側)グループ ↔ ポートの表 Windows で受信側を見る netsh interface ipv4 show joins PC が参加しているグループ(224.0.0.1、239.255.255.250 など)
このページの用語集(13 語)から作った確認問題です。「意味 → 用語」は意味の説明(用語そのものは__で伏せてある)を読んで用語を入力し、Enter で答え合わせします。 表記ゆれで × になったときは「合っていた」で直せます。「用語 → 意味」は口で説明してから答えを開いて自己採点します。結果はこのブラウザに保存され、「×だけ」で間違えた語だけを解き直せます。
作成 2026-10-28。ネットワークスペシャリスト 科目B(午後)対策。出典の年度・設問番号は IPA 公開の解答例で確認したもの(令和5年春 午後Ⅰ問2、平成27年秋 午後Ⅱ問2、令和6年春 午後Ⅱ問1)。 関連: OSPF とは、VXLAN と EVPN とは。