VXLAN と EVPN とは ── 実機を触ったことがない人のためのデータセンター網の構造

令和6年 午後Ⅱ問1 がまるごとこのテーマで、平成27年 午後Ⅱ問2 でも IaaS 基盤の題材として出ています。 一言で言えば「L3 ネットワークの上に、仮想的な L2 ネットワークをトンネルで作る技術」が VXLAN で、 「そのトンネルの出入口同士が、BGP を使って MAC アドレスを教え合う仕組み」が EVPN です。 午後の設問は、カプセル化の中身、MAC アドレスをどう学習するか、OSPF や BGP とどう組み合わせるかに集中しているので、その順で説明します。

1. VXLAN が解いている問題

アンダーレイ(L3 ネットワーク。リーフ〜スパイン間は全部 IP の回線、OSPF で経路制御) スパイン 1 スパイン 2 リーフ 1VTEP 10.0.0.11 リーフ 2VTEP 10.0.0.12 リーフ 3VTEP 10.0.0.13 リーフ 4VTEP 10.0.0.14 VM11 VM41 VM11 と VM41 は同じ VLAN100(同じサブネット)だが、 間にあるのは L3 ネットワーク。VXLAN がこの上に L2 を延ばす 赤枠=VTEP(VXLAN の出入口)。リーフ 1 → リーフ 4 はスパイン 1 経由と 2 経由の 2 経路(ECMP)
図1 スパイン 2 台・リーフ 4 台のデータセンター網。以下の説明はすべてこの図で進める

データセンターでは 1 台の物理サーバの上で多数の仮想マシン(VM)が動き、顧客(テナント)ごとにネットワークを分けます。 従来はこれを VLAN で分けていましたが、3 つの限界に当たります。

VXLAN の発想 データセンター内の配線は全部 L3(IP のルーティング)で組み、冗長経路は OSPF の ECMP で全部使う。 その上で、同じテナントの VM 同士が「同じ L2 にいる」ように見せるために、イーサネットフレームを IP パケットに包んで運ぶ(トンネル)。 包む・開く役の装置が VTEP(VXLAN Tunnel End Point)で、図1 ではリーフスイッチがそれです。 VLAN ID の代わりに VNI(VXLAN Network Identifier、24 ビット=約 1677 万)でネットワークを区別します。

下の L3 ネットワークをアンダーレイ、その上に作る仮想 L2 ネットワークをオーバーレイと呼びます。 この二層構造が理解の鍵で、設問で「どの機器が、どちらの層で、何を見ているか」を取り違えないことが第一歩です。

2. スパイン・リーフとアンダーレイ

図1 の形をスパイン・リーフ構成と呼びます。サーバを収容するリーフと、リーフ同士をつなぐだけのスパインの 2 段で、 すべてのリーフがすべてのスパインとつながるのが決まりです。リーフ同士は直接つながず、どのリーフ間も「リーフ → スパイン → リーフ」の 2 ホップで等距離になります。

3. VXLAN の動作 4 ステップ

VLAN と VNI を対応づける

サーバはこれまで通り VLAN タグ付きのフレームをリーフに送ります。リーフ(VTEP)は「ポート X の VLAN100 は VNI 10100」のようにVLAN ID と VNI の対応表を持ち、 受け取ったフレームをどの VNI に乗せるか決めます。同じテナントのネットワークには、どのリーフでも同じ VNI を割り当てます。

フレームを包む(カプセル化)

VM11 が送った元のフレーム 宛先 MAC: VM41 送信元 MAC: VM11 IP ヘッダ データ リーフ 1(VTEP)が丸ごと包む アンダーレイを流れるパケット 外側 Ethernet次ホップの MAC 外側 IP10.0.0.11→10.0.0.14 UDP宛先 4789 VXLAN ヘッダVNI 10100 元のフレームそのまま(宛先 MAC: VM41 …) 外側の宛先 IP は「VM41 を収容する VTEP」のアドレス。アンダーレイのルータは外側 IP しか見ない 追加されるヘッダは 50 バイト(Ethernet 14+IP 20+UDP 8+VXLAN 8)。アンダーレイの MTU はその分大きくする
図2 VTEP は元のフレームを UDP/IP で包み、外側の宛先には相手 VTEP の IP を書く

VTEP は元のイーサネットフレームを丸ごと(宛先・送信元 MAC を含めて)包みます。外側から順に、Ethernet ヘッダ、IP ヘッダ(送信元=自分の VTEP アドレス、宛先=相手 VTEP のアドレス)、 UDP ヘッダ(宛先ポート 4789)、VXLAN ヘッダ(VNI 入り)、そして元のフレーム、という並びです。 令和6年 午後Ⅱ問1 は内側から「イーサネットフレーム → VXLAN ヘッダー → IPv4 ヘッダー」の順を答えさせ、VNI のビット数 24 と、カプセル化に使うトランスポートが UDP であることを空欄にしています。

MTU 包むと 50 バイト増えるので、アンダーレイの MTU が 1500 のままだと、サーバが 1500 バイトのフレームを送った瞬間に収まらなくなります。 アンダーレイのリンクはジャンボフレーム(1550 以上、実際は 9000 など)にしておくのが前提です。IPsec トンネルの MTU 問題と同じ構図で、「トンネルのせいで MTU が足りない」は午後の定番です。

相手 VTEP を知る(MAC アドレスの学習)

包むには「宛先 MAC の VM41 はどの VTEP の先にいるか」を知らなければなりません。VTEP は普通の L2 スイッチの MAC アドレステーブルの代わりに、 「MAC アドレス → VNI → リモート VTEP の IP」という対応表を持ちます(同問「VM11 の MAC アドレス、VNI 及び L3SW11 の VTEP の IP アドレス」)。

フラッド&ラーン(EVPN なし) EVPN あり リーフ 1 リーフ 2 リーフ 3 リーフ 4 宛先 MAC を知らないフレームは、同じ VNI を持つ 全リモート VTEP へ複製して送る(マルチキャスト 239.0.0.1 宛て、または 1 台ずつユニキャスト) 返事が来て初めて「VM41 はリーフ 4」と学習 リーフ 1 ルートリフレクタ(スパイン) リーフ 4 ① リーフ 4 は VM41 の MAC を   学習したら BGP で広告する ② RR が全リーフに配る ③ リーフ 1 は送る前から  「VM41 は 10.0.0.14」を知っている Unknown Unicast のフラッディングが減る
図3 EVPN がないと知らない宛先は全 VTEP へばらまく。EVPN は先に教え合う

EVPN を使わない場合、この対応表はフラッド&ラーンで作ります。L2 スイッチと同じで、宛先 MAC を知らないフレーム(Unknown Unicast)、ブロードキャスト、マルチキャスト(まとめて BUM トラフィック)は 同じ VNI を持つすべてのリモート VTEP に転送し、返事のフレームの送信元 MAC と外側の送信元 IP を見て学習します。

「すべてのリモート VTEP に送る」方法は 2 つあります。①アンダーレイでマルチキャストを使い、VNI ごとに決めたグループアドレス(令和6年の問題では 239.0.0.1)宛てに 1 回送る。 ②VTEP が宛先ごとにユニキャストで複製して送る(ヘッドエンドレプリケーション、ingress replication)。 平成27年 午後Ⅱ問2 は①の構成で、「宛先となる VM の存在場所が不明だから」マルチキャストで送り、各 VTEP は該当グループの IGMP join を出しておく、という流れでした。

届いた側で開く

相手 VTEP(リーフ 4)は外側のヘッダを外し、VNI から VLAN ID に戻して、元のフレームを VM41 のポートへ出します。VM41 からの返事は逆向きに同じことが起きます。 サーバ側から見れば、間の L3 ネットワークは存在しないのと同じです。

4. EVPN ── 学習を BGP に任せる

フラッド&ラーンは単純ですが、VM が増えるほど BUM のフラッディングが増え、アンダーレイでマルチキャストの設定も要ります。 そこで「VTEP が自分の配下の MAC アドレス(と IP アドレス)を最初から全員に広告しておく」仕組みが EVPN(Ethernet VPN)です。広告に使うのは MP-BGP(マルチプロトコル BGP)で、 「VNI 10100 の MAC xx:xx は VTEP 10.0.0.14 にいる」という情報を BGP の経路として配ります(令和6年 午後Ⅱ問1 「MP-BGP を用いて学習する」)。

なぜ BGP なのか OSPF は「リンクの状態」を運ぶ設計で、MAC アドレスのような大量の情報を載せる拡張がありません。BGP は属性を自由に追加でき(マルチプロトコル拡張)、数十万経路を運ぶのが本職なので、MAC/IP の広告に向いています。 データセンター網では「アンダーレイは OSPF、オーバーレイの MAC 学習は BGP(EVPN)」という組合せが典型です。

5. 仮想化基盤との関係

物理サーバの中にはハイパーバイザが作る仮想スイッチがあり、VM はそこにつながります。VTEP の役目をこの仮想スイッチに持たせる構成(ホストオーバーレイ)と、物理のリーフスイッチに持たせる構成(図1)があります。 VM をライブマイグレーションで別の物理サーバへ動かすと、その VM の MAC アドレスは別の VTEP の配下に移るので、学習情報を更新する必要があります。EVPN では移動先の VTEP が新しい広告を出し、古い情報が置き換わります(MAC モビリティ)。

コンテナは VM より軽い仮想化で、1 つの OS の上でプロセスを隔離します。コンテナ間の通信も仮想スイッチ(ブリッジ)やオーバーレイで組むのは同じ発想です(令和4年 午後Ⅱ問2 がコンテナ移行の題材)。

6. 用語集(午後で出る順)

用語意味午後でのポイント
オーバーレイ/アンダーレイ上に作る仮想 L2 ネットワーク/下で支える物理 L3 ネットワークどの機器がどちらを見ているかを取り違えない
VTEPVXLAN トンネルの出入口。包む・開くアドレスはループバックに。「物理 IF 障害でも VTEP として動作できる」
VNI24 ビットのネットワーク識別子(約 1677 万)VLAN 4094 の限界を超える。VLAN ID と対応づける
カプセル化外側 Ethernet+IP+UDP(4789)+VXLAN ヘッダ+元フレーム並び順と「UDP」「24」。50 バイト増で MTU 注意
スパイン・リーフ全リーフが全スパインとつながる 2 段構成リーフ間は常に 2 ホップ。ECMP で冗長経路を全部使う
ECMP等コストの複数経路に分散OSPF のコストを揃える
BUM トラフィックBroadcast・Unknown unicast・Multicast全リモート VTEP へ複製。マルチキャストか ingress replication
フラッド&ラーンばらまいて返事で学習する方式学ぶのは MAC・VNI・リモート VTEP の IP の組
EVPNMP-BGP で MAC/IP を広告するコントロールプレーンUnknown Unicast が減る。ARP 抑制
MP-BGPIPv4 以外の情報も運べる BGP の拡張EVPN の経路を運ぶ
ルートリフレクタiBGP のフルメッシュを不要にする中継役スパインに置く。クラスター ID
ESIマルチホーミングのセグメント識別子2 台のリーフに同時接続して両方の帯域を使う
分散エニーキャストゲートウェイ全リーフが同じ仮想ゲートウェイを持つVM が移動してもゲートウェイは最寄り。VRRP 不要
ライブマイグレーションVM を止めずに別の物理サーバへ移す同じ L2 が必要=VXLAN の動機。MAC の所在が変わる
仮想スイッチハイパーバイザ内の L2 スイッチVTEP をここに置く構成もある

7. 午後での問われ方と答え方の型

設問の型答え方出た年度
空欄「VNI は□ビット」「カプセル化に使う□」24、UDPR6 午後Ⅱ問1
カプセル化したパケットのヘッダの並び内側から イーサネットフレーム → VXLAN ヘッダ → (UDP)→ IPv4 ヘッダ → 外側 EthernetR6 午後Ⅱ問1
VXLAN セグメント数が多い理由VNI が 24 ビットなので 2 の 24 乗の論理セグメントが構成できるH27 午後Ⅱ問2
BUM フレームをマルチキャストで送る理由宛先 VM がどの VTEP の先にいるか不明なので、同じ VNI を持つ全リモート VTEP に転送するR6 午後Ⅱ問1、H27 午後Ⅱ問2
VTEP が学習する情報VM の MAC アドレス、VNI、収容している VTEP の IP アドレスR6 午後Ⅱ問1
VTEP アドレスをループバックにする理由一つの物理インタフェースに障害があっても VTEP として動作できるからR6 午後Ⅱ問1
アンダーレイで両経路を使う OSPF 設定各経路のコストの合計値を同じにする(ECMP)R6 午後Ⅱ問1
ルートリフレクタの利点と設定項目iBGP ピア数を減らせる。クラスター IDR6 午後Ⅱ問1
EVPN で減るトラフィック・学習方法Unknown Unicast のフラッディング。MP-BGP で MAC を学習するR6 午後Ⅱ問1
マルチホーミング(ESI)の利点二つの回線の帯域を有効に利用できるR6 午後Ⅱ問1
VLAN ID から VNI への対応と転送先VLAN ID に対応する VNI を持つ全リモート VTEPR6 午後Ⅱ問1
書き方の型 「誰が・どの層で」を必ず入れる。「全 VTEP に送る」ではなく「同じ VNI を持つ全てのリモート VTEP に転送する」。 学習内容を問われたら「MAC アドレス」だけで止めず「MAC アドレス、VNI、VTEP の IP アドレス」の 3 点を書く。 OSPF・BGP の設問が同じ問題に混ざるので、アンダーレイ(OSPF、コスト、ECMP)とオーバーレイ(BGP、EVPN、MAC)を頭の中で分けて読む。

8. ミニ確認問題

クリックで答えが開きます。

Q1 VLAN ではなく VXLAN を使う理由を 3 つVLAN ID が 4094 までしかない。VM の移動のために同じ L2 を L3 網越しに延ばしたい。STP で冗長経路をブロックせず ECMP で全部使いたい。
Q2 VXLAN のカプセル化で付くヘッダを外側から順に外側 Ethernet、外側 IP(VTEP 間)、UDP(宛先 4789)、VXLAN ヘッダ(VNI 24 ビット)、そして元のイーサネットフレーム。合計 50 バイト増。
Q3 VTEP とは何で、アドレスはどこに付けるかVXLAN トンネルの出入口で、フレームを包む・開く装置(リーフや仮想スイッチ)。アドレスはループバックに付け、物理ポート障害でも動作できるようにする。
Q4 スパイン・リーフの接続の決まりと利点すべてのリーフがすべてのスパインとつながる。リーフ間は常に 2 ホップで等距離、複数スパイン経由の経路を ECMP で同時に使える。
Q5 フラッド&ラーンで VTEP が学習する 3 つの情報VM の MAC アドレス、VNI、その VM を収容するリモート VTEP の IP アドレス。
Q6 BUM トラフィックを全リモート VTEP に届ける 2 つの方法アンダーレイのマルチキャスト(VNI ごとのグループアドレス宛て)と、VTEP が宛先ごとにユニキャストで複製する ingress replication。
Q7 EVPN が解決することMAC/IP を MP-BGP で事前に広告するので、Unknown Unicast のフラッディングが減り、ARP も VTEP が代理応答できる。
Q8 EVPN でスパインをルートリフレクタにする理由リーフ同士を iBGP フルメッシュにするとピア数が増えすぎるため。リーフはスパインとだけピアを張る。設定にはクラスター ID を使う。
Q9 ESI によるマルチホーミングの利点サーバを 2 台のリーフにつないだ 2 本の回線を両方同時に使え、帯域を有効利用できる(片方は待機、にならない)。
Q10 アンダーレイで注意する MTU の話カプセル化で 50 バイト増えるので、アンダーレイの MTU を 1500 より大きく(ジャンボフレーム)しておかないと、1500 バイトのフレームが運べない。

用語の振り返り

このページの用語集(15 語)から作った確認問題です。「意味 → 用語」は意味の説明(用語そのものは__で伏せてある)を読んで用語を入力し、Enter で答え合わせします。 表記ゆれで × になったときは「合っていた」で直せます。「用語 → 意味」は口で説明してから答えを開いて自己採点します。結果はこのブラウザに保存され、「×だけ」で間違えた語だけを解き直せます。

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作成 2026-10-28。ネットワークスペシャリスト 科目B(午後)対策。出典は平成27年秋・令和6年春の午後Ⅱ(IPA 公開問題の解答例で確認したもの)。 関連: OSPF とは(アンダーレイ)、BGP とは(ルートリフレクタ・MP-BGP)、L2 冗長化とは(STP・スタックとの対比)。