VRRP とは ── PC から見た出口を 1 つに見せる冗長化

OSPF や BGP はルータどうしの話でした。VRRP はもっと手前、PC とルータの間の問題を解きます。 仕組み自体は小さいのですが、午後では OSPF・BGP・STP・リンクアグリゲーションと組み合わせたときの順序と落とし穴が繰り返し問われます。

1. VRRP が解いている問題

PC にはデフォルトゲートウェイを 1 つしか設定できません。「自分のセグメント以外宛ては、このアドレスのルータに渡す」という 1 行です。 ルータを 2 台置いて冗長化しても、PC に設定できるのは片方のアドレスだけなので、そのルータが止まると PC は出られなくなります。PC の設定を手で書き換えるのは現実的ではありません。

VRRP の目的 2 台以上のルータで仮想的な 1 台のルータを演じ、PC には仮想 IP アドレスをデフォルトゲートウェイとして設定させる。 どのルータがその仮想 IP を担当するかはルータ側で決め、担当が倒れたら別のルータがPC に気づかれずに引き継ぐ。

令和7年 午後Ⅰ問1 設問1(1) c「PC に設定するデフォルトルートのネクストホップに相当する」=デフォルトゲートウェイ、平成30年 午後Ⅰ問1 設問2(1)「VRRP の仮想 IP の用途」=デフォルトゲートウェイ、はこの一点を聞いています。

2. 仕組み

WAN/上位ネットワーク R1 マスター優先度 120 R2 バックアップ優先度 100 VRRP アドバタイズメント(1 秒ごと、224.0.0.18)→ 仮想 IP 192.168.1.254 PC PC PC PC のデフォルトゲートウェイは仮想 IP。今それを持っているのはマスターの R1
図1 2 台のルータで 1 つの仮想 IP を担当する
仮想 MAC を使う理由 PC の ARP キャッシュには「仮想 IP → 仮想 MAC」が入ります。マスターが交代しても仮想 MAC は変わらないので、PC は ARP をやり直す必要がありません。 もし実 MAC で応答していたら、交代のたびに全 PC の ARP キャッシュが古くなり、タイムアウトまで通信できなくなります。

3. 障害時の動き

R1 停止広告が止まる R2 → マスター約 3 秒後 L2SWMAC テーブル更新 3 回分届かない GARP ① バックアップはマスターの広告を待つ。マスターダウン間隔(約 3 × 広告間隔)届かなければ自分がマスターになる ② 新マスターは仮想 IP と仮想 MAC(00-00-5E-00-01-XX)を引き継ぎ、GARP を送ってスイッチの MAC テーブルを書き換える ③ PC は何も変わらない。ARP キャッシュの仮想 MAC は同じまま、届け先のポートだけがスイッチ側で切り替わる この「PC 側は何もしなくてよい」が VRRP の価値。仮想 MAC を使うのはそのため
図2 マスター停止から切替完了まで
  1. バックアップは広告を待っています。マスターダウン間隔(約 3 × 広告間隔 + α、既定で約 3 秒)届かなければマスターが死んだと判断し、自分がマスターになります。 令和4年 午後Ⅱ問2 設問1(3)「バックアップが、VRRP アドバタイズメントを決められた時間内に受信しなくなったとき」が判定条件の解答例です。
  2. 新マスターは仮想 IP・仮想 MAC を引き継ぎ、GARP(Gratuitous ARP、自分の IP を自分で広告する ARP)を送ります。スイッチはこれで「仮想 MAC は今こっちのポートの先にいる」と MAC アドレステーブルを書き換えます。 平成26年・平成27年・令和元年の午後Ⅰで空欄「GARP」が 3 回出ています。
  3. PC は何も変わりません。切替時間は数秒で、その間のパケットは失われます。
プリエンプト(先取り) 元のマスターが復旧したとき、優先度が高いので自動でマスターに戻る動作をプリエンプトと呼び、既定で有効です。 戻るときにもう一度切替が起きるので、戻るタイミングを遅らせるプリエンプトディレイを設定できます。5 章の「OSPF の収束を待つ」はこの設定の話です。

4. 落とし穴とトラッキング

WAN × 断 R1 マスターLAN 側は正常 R2 バックアップWAN 側は正常 LAN 側の広告は届き続けるので R1 はマスターのまま → PC の通信は R1 で行き止まり 対策=トラッキング。R1 が WAN 側 IF の障害を検知したら自分の優先度を下げ(例 120 → 90)、R2 にマスターを譲る 令和4年 午後Ⅱ問1 設問5(5)「インタフェースの障害を検知した時に L3SW31 の VRRP の優先度を下げる」
図3 LAN 側は生きているのに WAN 側が落ちた場合

VRRP の広告はLAN 側のインタフェースで流れます。だからWAN 側だけが落ちたときは、R1 は元気に広告を出し続けてマスターのままで、PC の通信は R1 で行き止まりになります。

対策がトラッキングです。監視したいインタフェース(WAN 側ポート)や、監視したい経路を指定しておき、それが落ちたら自分の優先度を自動で下げる設定です。 下がった優先度がバックアップより低くなれば、バックアップがプリエンプトでマスターを奪います。令和4年 午後Ⅱ問1 設問5(5) の解答例「インタフェースの障害を検知した時に L3SW31 の VRRP の優先度を下げる」はそのままこれです。

よくある落とし穴

5. 経路制御との組合せ(午後の本丸)

VRRP は「PC から見た出口」を決めるだけで、その出口から先の経路表は別の仕組み(OSPF・BGP・静的経路)が作ります。 この二つは独立に動くので、出口にはなれたが経路表が空、という状態が起こり得ます。午後の設問はほぼ全部ここを突きます。

場面何が起きるか対策出た年度
ルータ再起動直後VRRP はすぐマスターに戻れる(優先度が高い)が、OSPF は隣接確立と LSA 交換の途中で経路表がない。マスターになると転送できず通信断プリエンプトディレイで、OSPF が収束してからマスターに戻すR7 午後Ⅰ問1
BGP と VRRP の導入順先に VRRP を入れると、マスターになった R13 が BGP の経路を持っておらず転送できないBGP を先に導入し、経路が揃ってから VRRPR5 午後Ⅱ問1
WAN 側障害LAN 側の広告は続くのでマスター交代せず、行き止まりWAN 側 IF(または経路)のトラッキングで優先度を下げるR4 午後Ⅱ問1
サーバアクセスの経路どのサーバ宛ても、VRRP マスターにつながる WAN 回線を通る(バックアップ側の回線が遊ぶ)VRRP グループを 2 つ作り、マスターを互い違いにして両回線を使うH28 午後Ⅱ問2
STP との同居STP の再構築中は広告が届かず、意図しないマスター交代や両マスターが起きる再構築が終わるまで待つ。RSTP で短縮H30 午後Ⅰ問1
答え方の型 「なぜ待つのか」「なぜ先に入れるのか」と聞かれたら、「VRRP マスターになった機器が経路情報を持っていないと、受信したパケットを転送できないから」まで書く。 令和5年 午後Ⅱ問1 設問2(4) の解答例がほぼこの文で、令和7年 午後Ⅰ問1 設問1(4)「OSPF の経路情報が収束した状態」も同じ理屈です。

6. 用語集

用語意味午後でのポイント
仮想 IP アドレスVRRP グループが持つアドレス。PC のデフォルトゲートウェイ「PC に設定するデフォルトルートのネクストホップ」と言い換えられる
仮想 MAC アドレス00-00-5E-00-01-XX(XX は VRID)交代しても変わらないので PC の ARP をやり直さなくてよい
マスター / バックアップ仮想 IP を担当する 1 台 / 待機優先度最大がマスター。同点なら実 IP が大きい方
優先度1〜254。既定 100。仮想 IP の持ち主自身は 255トラッキングで動的に下げる
VRRP アドバタイズメントマスターが 1 秒ごとに送る生存通知。224.0.0.18、プロトコル番号 112届かなくなるとバックアップが昇格
マスターダウン間隔広告が途絶えてから昇格するまでの時間(約 3 秒)切替時間の目安
プリエンプト / プリエンプトディレイ高優先度が復旧したら奪い返す / その遅延経路制御の収束待ちに使う
トラッキングIF や経路の状態に連動して優先度を下げるWAN 側障害の対策
GARP自分の IP を自分で広告する ARP新マスターがスイッチの MAC テーブルを更新するために送る。IP 重複検出にも使う
VRIDグループ番号 1〜255同じセグメントに複数グループを作り、マスターを分けて負荷分散
HSRPCisco 独自の同等機能(仮想 MAC 00-00-0C-07-AC-XX)午前Ⅱで名前だけ

7. 午後での問われ方と答え方の型

設問の型答え方出た年度
仮想 IP の用途 / 空欄「デフォルトゲートウェイ」PC のデフォルトゲートウェイH30 午後Ⅰ問1、R7 午後Ⅰ問1、R4 午後Ⅰ問1
空欄「GARP」新マスターがスイッチの MAC テーブルを更新するために送るH26・H27・R1 午後Ⅰ
マスター停止をバックアップが判定する条件VRRP アドバタイズメントを決められた時間内に受信しなくなったときR4 午後Ⅱ問2
定期的に流れるパケット名VRRP アドバタイズメントH30 午後Ⅰ問1
再起動後にすぐマスターにしない理由経路制御(OSPF)が収束して経路表ができるまで転送できないからR7 午後Ⅰ問1
BGP の後に VRRP を導入する理由マスターになった機器が経路情報を持っていないと転送できないからR5 午後Ⅱ問1
上位リンク障害への備えインタフェース障害を検知したら優先度を下げる(トラッキング)R4 午後Ⅱ問1
広告が届かなくなるとどうなるか両方がマスターになる / 意図しない交代H30 午後Ⅰ問1
更改時の注意新旧機器で仮想 IP が重複しないようにするR3 午後Ⅱ問1
片側の WAN 回線しか使われない理由全通信が VRRP マスター側の回線を通るから。グループを分けて分散H28 午後Ⅱ問2

8. ミニ確認問題

Q1 VRRP がなければ、ルータを 2 台にしても PC は救えない。なぜかPC のデフォルトゲートウェイは 1 つしか設定できず、そのルータが止まると PC は他のルータを知らないから。
Q2 マスター交代のとき、PC 側で何かする必要はあるか。理由は不要。仮想 IP も仮想 MAC も変わらないので ARP キャッシュがそのまま使える。スイッチ側の MAC テーブルだけ GARP で更新される。
Q3 バックアップがマスターに昇格する条件マスターからの VRRP アドバタイズメントがマスターダウン間隔(約 3 × 広告間隔)の間届かなかったとき。
Q4 WAN 側だけが切れたとき VRRP はどうなるか。対策はLAN 側の広告は続くのでマスターは交代せず行き止まりになる。WAN 側 IF のトラッキングで優先度を下げ、バックアップに譲る。
Q5 プリエンプトディレイは何のために設定するか復旧したルータが、OSPF などの経路制御が収束して経路表を持つ前にマスターへ戻るのを防ぐため。
Q6 BGP と VRRP を導入する順番と理由BGP が先。VRRP マスターが BGP の経路を持っていないと受信したパケットを転送できないから。
Q7 2 台の間で広告が届かなくなると何が起きるか両方がマスターになり、仮想 IP・仮想 MAC が二重に応答して通信が不安定になる。
Q8 仮想 MAC アドレスの形式00-00-5E-00-01-XX(XX は VRID)。広告は 224.0.0.18、IP プロトコル番号 112。

用語の振り返り

このページの用語集(11 語)から作った確認問題です。「意味 → 用語」は意味の説明(用語そのものは__で伏せてある)を読んで用語を入力し、Enter で答え合わせします。 表記ゆれで × になったときは「合っていた」で直せます。「用語 → 意味」は口で説明してから答えを開いて自己採点します。結果はこのブラウザに保存され、「×だけ」で間違えた語だけを解き直せます。

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作成 2026-10-26。ネットワークスペシャリスト 科目B(午後)対策。出典は平成26〜30年秋・令和元年秋・令和3〜7年春の午後Ⅰ・Ⅱ(IPA 公開問題)。 関連: OSPF とは、BGP とは。